第3章 薄月
思わず立ち上がって、大野と父親の間に割り込んだ。
「お父さんも、少し落ち着いてくださいっ…」
「しかし先生…」
「大野。大丈夫か?」
ぎゅっと唇をかみしめて俯いている肩は、震えていた。
手には…ハンカチ…
昨日俺が渡したハンカチが握られてた。
なんだかそれを見て、胸がぎゅっと苦しくなった。
やっぱり…大きな問題を抱えている。
それも大野一人の力でどうすることもできない、大きな問題を…
「立てるか…?」
大野の腕を引いて立たせた。
向かいの席に誘導して、父親から少し離した。
「少し…落ち着きましょう…」
ウエイトレスを呼んで、新しい飲み物を頼んだ。
しばらくの間、誰も何も言わず。
ただ、大野の鼻を啜る音が時々聞こえる。
新しい飲み物が来ると、それを父親に勧めた。
俺も大野の隣に腰掛けて、やっとホットコーヒーを啜った。
味なんてよくわからなくて。
まだ泣いている大野の前には、カランと氷が音を立てるカフェラテが来ていて。
ガムシロを全部ぶち込んでやって、ストローでかき回して、大野の手に持たせた。
大野はしばらく動かなかったが、おもむろにストローに吸い付いた。
「ぶっ…甘っ…」
盛大に噎せて、ハンカチを口に当てた。