第3章 薄月
「話してくれるか?」
そう言うと、大野は少し黙って。
それからこくんと頷いた。
「智…?一体何だと言うんだ…?」
父親が怪訝な顔をして、大野の方に体を向けた。
「なにか父さんに相談があるんなら、家で言えばいいだろう。わざわざ担任の先生にご足労いただいて、ご迷惑だろう?」
大野はそれには答えなかった。
またグラスに目を落とすと、ぎゅっと目を閉じた。
「…家に…帰ってこないくせに、いつ話せっていうんだよ…」
「え?」
「智っ…」
父親は、大野の肩を掴んだ。
「お父さんっ…」
思わず大きな声が出てしまった。
そんな俺を見て、父親はハッとした顔をして、大野の肩から手を外した。
「す、すいません…何を言い出すのかと思えば…」
「父さん、もう逃げんなよ…」
「智…いい加減にしなさい」
「俺、もう限界だよ…」
そう言って、ぽろりと一粒。
涙を零した。
「大野…」
呼びかけると、俯いたまま首をブンブンと振る。
「せんせぇ…俺、もう…あの家に…帰りたくないっ…」
「智…落ち着きなさい…」
父親がまた大野の肩に手をかけたが、すぐに振り払われた。
「父さんがっ…逃げ回るからっ…だから、母さんはっ…」
「智っ…」
父親が、乱暴に大野の腕を掴んだ。
「やめてくださいっ…」