第3章 薄月
side S
「すいません、遅れまして…本日はわざわざ足を運んでいただいて、ありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ…」
次の日の夕方。
大野の父親と面会することができた。
俺は病院で診察予約が入っているからと一昨日から申請してあって、学校を早引けして病院で抜糸をしてから、約束の喫茶店へ向かった。
時刻は夕方の6時を過ぎていた。
父親の隣には、表情を固くした制服姿の大野が座っていた。
なんだかその表情が、年相応に見えて…
ほっとした。
名刺交換をして大野の父親に指し示された向かいの席に腰掛けると、ウエイトレスが冷やを持って注文を聞きに来た。
ホットを頼むと、すぐにウエイトレスは下がっていった。
ここは商談をするスペースがあり、時間貸しで小さな個室も使える。
今回は大野の父親が、この個室を予約してくれた。
「すいません…ちょっと病院に寄っていたもので…」
「どこかお悪いんですか?」
「いえ…ちょっとぶつけてしまって…怪我を…」
「そうですか」
父親はちらりと俺の額のテープを見た。
抜糸後、なんかテープを貼られて。
薄い肌色だから目立たないが、よく見たら…わかるか。
気まずそうに俺を見た大野の足元は、真新しいローファー。
昨日あれから買いに出たようで。
朝、校門当番している俺に、チラチラ見せながら校内に入っていく大野が、ちょっと面白かった。
少し…心、開いてくれたのか…?