第3章 薄月
明日、放課後に会う約束をして、電話は終わった。
「大野。待たせた。面談は、明日の夕方になる。ちゃんと来いよ?」
「…父さん…ちゃんと約束…しましたか…?」
「え?」
「あ…なんでも、ない…」
…もしかして…仕事だから、すっぽかすかもしれない。
父さんは今まで、じいちゃんが大事な話があるって言っても、逃げ回って…結局じいちゃんが亡くなったらやっと、ちゃんと戻ってきたくらいだから…
また…逃げるかもしれない…
「…大野…?」
じいちゃんが居なくなって…
父さんも母さんも本当の意味で、俺が居る家を、「家」と見てなくて…
ただの物置
ただの寝る場所
俺のことなんて…邪魔だと…
ふたりとも、そう思ってる
いらないって
「え…?」
突然視界が遮られて。
温かいものに包み込まれた。
「…大野、また泣いてるぞ…」
「え…?」
「すまん…ハンカチそれしかないから…もう、ビショビショだろ?先生のシャツで拭け。箱ティッシュ切らしてて…すまん」
先生のお腹に顔を埋めるように、抱きしめられてた。
びっくりして、動けなかった。
先生の腕はとっても温かくて。
その温もりが…なんだか懐かしく…
いい匂いがした
泣いてもいいんだよって、先生の手がブレザーの背中に添えられて。
あったかい
「せん…せぇ…」
「ああ…大丈夫だから…ちゃんと、話聞くから…」
ぎゅっと先生の腕に力が入った。
「だから…一人で泣くな…大野…」
なんで男同士でこんなことしてんだよ。
幼稚園児じゃないんだから、抱っこなんかされたって嬉しくねえんだよ。
いろいろ脳に浮かんできては、消えていくんだけど…
本当は、先生の腕は温かくて、気持ちよくて
久しぶりに人にこうやって抱きしめられて、嬉しくて
なんだか、離れたくなくて
何もかもこの人に曝け出して…
楽になってしまいたい
助けて…くれるの…?
櫻井先生……