第3章 薄月
先生が、デスクの上の電話の受話器を取った。
番号を入れると、俺の方に体を向けた。
大丈夫、っていってるみたいに、一回頷いて。
それから窓の方を向いた。
背中が少し緊張してるのがわかる。
「あ、聖華学園高校の2年E組担任の櫻井と申します。お忙しいところ、突然申し訳ございません。いつも大変お世話になっております…今、お時間は大丈夫でしょうか?」
ちょっと間があって。
その間、先生の背中は微動だにしなかった。
…すごく、真剣なんだ…
「…ありがとうございます。大野智くんのことでお話したいことがありまして…」
先生は、事務的に話を進めていった。
電話でできる話じゃないから、俺と父さんと先生で面談をさせてくれって。
父さんはすぐ断ると思ったけど、櫻井先生は食い下がった。
俺がビーサンを履いて登校してきたこと。
校則で決まっている外出してはいけない時間に、渋谷に居たこと。
それらを改善するべく、話がしたいこと。
なんとか押しに押して、先生はついに俺の父さんと約束をした。
「…先生…」
櫻井先生は、俺の方を見てぐっと親指を立てた。
メガネの奥の目は、得意げだ。
額の傷…大丈夫かな…
なんとなく、あの日先生の血が飛び散った頬を触った。
…なにしてんだろ、俺