第1章 狐月
それから一年掛けて就職活動をしようとしていたが、たまたま母校の元担任から声がかかり。
なんと英語の教員が急病で欠員が出たからどうだ?ということで、急いで面接を受けて、母校の高等部に就職が決まった。
それが一昨年の春。
急だったもんだから、新任の1年は学年付き。
そして去年は副担任。
今年、定年した先輩教員の跡を継いで、やっと念願のクラス担任を持つことができた。
「櫻井先生、おはようございます」
「おう。おはよう。早く行けよ。もう予鈴だぞ」
「はぁい」
まだ新品の一年坊の背中を見送って、腕時計を見た。
もう予鈴だ。
「ふむ…」
長かったゴールデンウィークが明けて、やっと月曜。
ここのところ天気が続いていて、5月だというのに暑いくらいだ。
5月病なんか吹き飛ぶほどで。
「せんせーおはよー」
バタバタと元気に生徒が駆け込んでくる。
「はい、おはよー。早く行けよー予鈴鳴るぞ」
「わ、ギリじゃん…」
生徒は腕時計を見ながら、生徒玄関までダッシュ。
「よし…閉めるか…」
ふと振り返ると。
校門から続く、敷地の塀沿いをのたりと歩く生徒が見えた。
「あれは…」
間違いない。
うちのクラスの問題児、大野智だ。