第3章 薄月
カズヤのせいで、その後の5、6限は力が抜けた。
たまに、ニヤニヤしながらこっちを見るカズヤの視線がうるさい。
ぜってー違うからな…
俺は、マゾじゃない。
はず…
6限終わりのチャイムが鳴ると、一斉に教室はざわざわする。
真っ直ぐに家に帰るやつ。
これから部活に行くやつ。
塾に行くやつ。
俺はこれのどれでもなく…
「はあ…」
立って歩き出すと、ブレザーの裾をクイッと引っ張られた。
「あ?」
机に突っ伏してたカズヤが裾を引っ張ってた。
「…なんだよ?」
「櫻井んとこ行くの?」
「ああ…」
「昼休み、行ったんじゃないの…?」
「…別になんでもいいだろ…」
「俺さあ…」
裾を掴んでた手を離すと、カズヤは座ったまま伸びをした。
そのままアクビまでかました。
「あのせんせ、いいと思うよ」
「…は?」
「ぶっ…そういう意味じゃないって…信用できると思う」
「…何いってんの…?」
「櫻井だけ…俺のこと、ちゃんと見る」
「え…?」
「他の男の先生、みんな目を逸らすんだよね…笑っちゃうよね。あんなモッサイおっさんたちにチンコ勃つかっつーの…」
くりっとした、黒目がちの目で俺を見上げた。
「智も、ちゃんと俺の目を見てくれるから…信用してる」