第3章 薄月
side O
どうしよう…
あいつ、家に来たらどうしよう…
廊下を歩きながら、必死で考えた。
中学の時は、じいちゃんが生きてたから…
学校の連絡は全部、じいちゃんの家へ行ってた。
母さんが酒を飲んで暴れたら、じいちゃんの家にしばらく居ればよかった。
その間に父さんが母さんをなんとかして、穏やかな母さんに戻ったから…
だから家庭訪問も、問題なくやり過ごせた。
中等部から高等部に上がる春…
じいちゃんは亡くなった。
去年の担任は、耄碌寸前の定年退職前のジジイだったから、ごまかせたけど…
櫻井をごまかすことは、無理なのかも知れない…
もう、母さんが穏やかに戻る日なんて、ない
父さんが出ていった日から…
戻ることはない。
父さんは、逃げた
『男なら…強くならなきゃいけないよ…智…』
じいちゃん…
父さんは、なんであんなに弱いの?
『男は弱音なんか吐くもんじゃない…いいな?智…』
どうして…父さんは逃げ回るの?
立ち止まって、足元を見る。
内履きの足は、寒くない。
外に…外に出るときは、また寒いんだろうなあ…
「もう……嫌だ…」