第3章 薄月
時計を見たら、もう1限目の終わりが近づいていた。
「はいはい、もう時間がないな。しょうがないから、先生から提案がある」
そう言って、立ち上がった。
ここまで生徒たちに任せていたが、しゃしゃり出ることにした。
「なんですか?」
クラス長が怪訝な顔をした。
「看板のサブリーダーは、仁科にしてもらう」
「はあっ!?」
仁科が驚いて俺を仰ぎ見た。
「仁科は中等部から一回も体育祭に出てないな?先生、知ってるんだぞー?」
少し低い声で言ったら、途端に首を竦めて俺から目を逸した。
「あっ…カズヤてめえ!俺にめんどくさいこと押し付けておいて、自分はサボるつもりだったのかよ!?」
「人聞きの悪いこと言わないでくれる?俺は具合が悪くて病欠だったんだけどぉ~?」
「はあ?はあ?どっから見ても健康優良児だろうが!」
「病弱なんだもんっ!」
大野と仁科が言い争いを始めたから、二人の首根っこを掴んで引っ張り上げた。
「ぐげっ…」
「ぐっ…」
途端に二人は黙ってくれた。
「二人ともこれは、決定事項だからな?わかったな?」
二人は不服そうに、モガモガ抵抗する。
やっぱり…ただじゃこいつらいう事聞かないよな…
そっと二人の耳元に口を寄せて囁いた。
「…俺の校門当番のとき、しばらく遅刻を見逃してやる…どうだ?」
ピタリと二人の動きは止まった。