第3章 薄月
「じゃあ、大野くんは看板リーダーが良いと思いまーす」
「おお!それ良いね!」
「大野なら絶対いいの作ってくれるよな!」
「賛成!大野ならカッコいい絵描けるもん!」
「んがっ…ちょ、勝手に決めんなよ!」
寝そうになっていた大野は、急に名前を呼ばれて椅子からずり落ちそうになりながら抗議した。
「ぶっ…」
堪えきれなくて、思わず笑ってしまった。
「あっ…わ、笑うなよなっ!」
LHRはクラス長と副クラス長、それから体育委員が中心になって話し合いを進めているから、俺は後ろの隅っこに椅子を持っていって話し合いを見守っていた。
必然的に、仁科と大野の席の真後ろってことになる。
「おまえが寝てるのがいけない」
「そーだぞー智ー」
大野を看板リーダーに仕立て上げた仁科が混ぜっ返す。
「かっ…カズヤこのやろ…」
「僕もいいと思いまーす♡」
ちょっと高いきゃわわな声を出して、全員に同意を求めるように仁科が言い放つと、拍手が起こった。
「俺もいいと思いまーす!」
「俺も俺もー!」
「んだぁぁ!待てってば!俺、リーダーなんてできねえって!」
「いいからいいからぁ…大野は下絵だけ描いてくれればいいからさあ…ね?」
仁科はどうやら大野にクラス看板の絵のデザインをさせたいらしい。
まあ、美術の成績いいからなあ…作品は見たことがないけど。
大野が寝ている間に、さささっと要望を通してしまうあたり…仁科の奴、要領が良すぎる。
…どーせ体育大会はサボるくせに…