第3章 薄月
正直、事例を調べていくごとに、トラウマのようなものにもなって…
そして自分ならどうしただろう、どうできただろうかと、毎日答えの出ない逡巡までするようになってしまった。
だから、卒論の提出が遅れたんだ。
俺の、今まで全く知らなかった…世界…
世間知らずだったことを、痛感した。
エスカレーター式の一貫校で、守られていたんだと。
ぬるま湯みたいな中で育ったんだと。
だから、決定的に就職できないとわかった時、世界を放浪することに決めたんだ。
逃げ出したかったのかもしれない。
…でも、結果的に俺が目にしたものは…
俺を教師の道へと突き進ませることになった。
字を覚えたい
自分の名前を書けるようになりたい
計算ができるようになりたい
給料をごまかされないために
それすらも叶わない、子どもたちの姿…
…何ができるか、わからない。
実際に教師になって3年、何をしてきたのかもわからないうちに時間が過ぎていった。
でも少しわかったことと言えば…
今の日本の教育現場では、やれることは限られている。
教師という立場では限界がある。
なにか、道を見つけたかった。
教育者としての、道。
今、模索している最中だ。
「よっしゃ、やるか」
予鈴が聞こえてきた。
今日こそ、大野をとっ捕まえてやる。