第2章 寒月
side S
…ビーサン…?
なんで、ビーサン…?
いや、まあ最近暑かったけども。
でも日が落ちると、途端に冷えてくる。
こんな時間に出かけるのにチョイスするもんじゃないだろ。
「大野…?なんでビーサンなんだ…?」
思わず聞いてしまった。
「…関係ないだろ…」
途端に声が硬くなった。
なんかまずいことを聞いてしまったのか?
「…帰る」
切って捨てるように、俺に背中を向け歩き出した。
「だから、家まで送るから」
「いい…女じゃねえんだからっ…」
「いや、女じゃないけどおまえはまだ未成年なんだから…」
「家にくらい帰れるから、ついてくんなっ…」
「大野!」
大野の肩を掴んで無理やり止まらせた。
「しつこいんだよっ…」
振り返った大野の目は、怒っているようだった。
「大野…なんか、あったのか…?」
こんなに怒る大野を見るのは初めてだった。
ビーサンがなんのスイッチを入れたのかはわからないが、とにかく触れて欲しくなくて怒ってるのか…
いつも飄々と…そして、なにか諦めているような…
この年代の男子にしては、生きるパワーが足りないっていうか…
そう、まるで五関みたいな空気感なんだ。