第2章 寒月
強行突破で、駅まで戻ってみたけど…
櫻井のしつこさは、すっぽん並だった。
撒いてしまおうと、わざと遠回りのJRの構内に入ってダッシュしても、まだついてくる。
「しつけーな…」
ゼイゼイして、しんどそうなのに。
「だぁから…家帰るって言ってるだろ!?」
「い、家の近くまで送るから…っ…」
俺の肩に手をかけると、強引に歩いてるのを止められた。
「た、頼むから、ちょっと、止まって…?」
なんかお願いされてしまった。
ふと見ると、額に付けてるガーゼに血が滲んでて。
今朝、俺のせいでコケたからついた傷だと思うと、なんか…
どうしていいかわからなくなった。
その下のメガネは、なんだか曇っている。
こんなに必死になってついてこなくていいのに…
「足…早いなあ…さすが大野…」
「はあ…?」
「おまえ、体育の成績が一番いいもんな。あ、美術も」
担任だから、把握してんだろうけど…
そこまで俺に興味があるなんて思ってなかったから、ちょっと驚いた。
構内の連絡通路のど真ん中で立っているから、リーマンがすれ違いざま舌打ちをしていった。
しょうがないから、ヘロヘロになってる櫻井を引きずるように隅に寄った。
「ああ…すまん…」
ちょっと情けなく、曇ったレンズの向こうの目が瞬かれた。
急に足元が、寒く感じて。
少し足を動かしたら、櫻井の目線が足元に落ちた。