第1章 狐月
「せんせー…血ぃ出てるよ…?」
「あ?そんなことより、HR始まるから行くぞ!大野!」
強く掴まれた手首が痛い。
「…わかったから…行くから…とりあえず、保健室…」
「俺のことは大丈夫だからな?さ、行くぞ!」
俺の手首を掴んだまま、櫻井は立ち上がった。
ずんずん、歩き出す。
手首、いてーよ…
それでも…俺はなぜか、櫻井の手を振り払うことができなかった。
そんな俺に満足したのか、櫻井は更に歩くスピードを上げた。
「せんせー…そんな走ったら…」
「んー?なんだ?大野?」
振り返った櫻井は、おもむろに袖で額を拭った。
「……!」
袖口を見たまま、ぎょっとして固まった。
そりゃーそうだろ…
べっとり血がついちゃってるもん…
「…な?だから保健室行こうぜ…?せんせー…」
櫻井は返事をしない。
そのまま、本鈴が鳴った。
「せんせー…?」
ちょっと、フラリと櫻井の身体が揺れた。
「いや、大野が遅刻になるから…」
「俺のことなんていいよ…どうせ、遅刻だらけだし」
「だからだろ!ほら、教室行くぞ!」
血が流れたまま、櫻井はまた歩き出した。
…なんだよ…保健室行けばいいじゃねえか…
こういうの、うぜーんだよ…
学校なんて…
教室なんて…
息が詰まる