第2章 寒月
そのまま引き返しても良かったんだが、ついでに見回りをしていくことにした。
渋谷は、学生には誘惑が多いからな。
うちの学校の見回り地区でもあるから、ある程度コースもある。
このまま自宅の駅まで引っ返すのも、キセルになりそうだったから心苦しかったし。
額のガーゼが恥ずかしいが、もういい…
改札を出て、スクランブル交差点を目指す。
信号を待つ間、人混みの中になんとなく見覚えのある小さな背中が見えた。
「ん…?」
あの特徴のある猫背…
制服じゃないから、確信は持てない。
キャップを被っているから、イマイチ自信が持てない。
「もうちょっと近くで…」
そう思って移動しようとしたが、ちょうど信号が青になってしまった。
一斉に人が移動し始めた。
人波に押されるように歩き出した。
「やばい…また見失う…」
黒めのキャップを見失わないように必死に追いかけた。
センター街のほうに歩いていく背中を、やっとじっくり観察できる距離に近づいた。
「やっぱり…」
その猫背は大野だった。
隣には、見たことのない少年が居る。
こんな時間に…自宅ではない場所に向かおうとしているのは明らかだったから、後ろから肩を掴んだ。
「大野。こんなところで何してる」
はっと振り返った顔は、俺を見てすぐに曇った。
「なに?誰?」
隣の少年は生意気な風情で俺に突っかかってくる。
なんだこいつは…
大野の友達にしては、少しチャラい雰囲気を出していた。