第2章 寒月
とぼとぼと病院から、駅に向かって歩く。
まだ部分的な麻酔が効いてるからか、傷の痛みは感じない。
今日はこのまま自宅へ帰るようにと学校長から伝言だと、澄岡さんから留守番電話が入っていたから、学校に戻って仕事の続きをするわけにもいかない。
『あいつらは、商品』
相葉先生の声が蘇る。
…そう…商品…俺達の給料の素…
「なんだそりゃ…味の素かよ…」
でも、そうなんだよな…
私立のボンボン高なんて、そんなもんだ。
高い理想を掲げた教育方針があるわけでもなく。
ミッション系仏教系のように、強い理念があるわけでもない。
公立のように、国の方針も大きく影響してこない。
無事に、お預かりした大切なご子息を、エスカレーターに乗っけて大学に持ち上げればそれでいいんだ。
そして「大卒です」と検品ハンコを押したら、商品の完成だ。
実際に俺だって、その道を通ってきたんだ。
…でもさ…
教師って…なんなんだろうな…
1年の海外の放浪生活は、学校も行けない子供たちがたくさんいることを再確認させられた。
本の上では知っていた。知識としては知っていたんだ。
でも実際、視覚や嗅覚で感じる世界の現状…
学校へろくに行けていない…いや学校すらない地域の大人たち…そしてその子もまた、学校へ行く機会なんてない。
そんな連鎖を断ち切るべく、必死で勉強している子供たちを見て…俺は、教育者として何ができるか…
ずっと、答えを探し続けている。