第8章 幾望
「…正直、今でもまだ考えてるんだ」
「え?」
「俺は、教師としてなにがしたくて、なにをしていけるんだろうって」
ちょっとだけ頭を掻くと、照れくさそうに俺を見た。
「智は、なんか将来やりたいこととかあんの?」
「えー…」
そんなの、考える暇なんてなかった。
とにかく毎日、どうやって母さんが暴れないようにとか…
逃げたらどこ行こうとか…そんなことばっかり考えてたから。
「まだ…わかんない…かな…」
「そうか…まあ、これからいくらでも時間はある。ゆっくり考えればいい…」
でも…
ひとつだけ
確かなことはある
「俺…」
「ん?」
翔と、この先もずっと一緒にいること
「学校の、先生になろうかな…」
「えっ!?」
翔が目をまんまるにして俺を見た。
「た、大変だぞ!?学校の先生…」
「そうなの?」
「おう…もう、日本の学校の先生なんて、ほんともうなんの修行してんだかわかんないくらい忙しいんだぞ…?」
「でも翔、やってんじゃん」
「いや、そりゃなあ…俺は昔から教師になりたかったし…」
翔はテーブルの上のマグカップを手にとって、また一口飲んだ。
「あ…でも…」
「ん?」
「智、絵が上手いから美術教師って手もあるなあ…」