第8章 幾望
それから、翔は世界中を回ったときの話をしてくれた。
…ちょっとだけ、和也さんのことを思い出した。
軽くシャワーをしながら…家事をしながら…朝飯を食いながら…
翔は楽しそうに、思い出を語ってくれた。
「えっ…それ、大丈夫だったの…?」
「ポケットにな…タイで買った小さな仏像が入っててな…」
「うん…」
「真鍮製だし、安物だったんだけどさ。それ見せたら、偉い喜ばれてな…」
「え…ええええ…?」
「珍しかったのか、金ピカだったから高いものだと思ったのかわからないけど、とりあえずその場からは逃げられたよ…」
「それ…一歩間違ったら…」
「殺されてただろうな…」
激甘のカフェオレを飲みながら、翔はちょっと思い出してげんなりしてる。
「…でもさ…そういうのばっかじゃなかったんだぞ…?」
「うん…だって世界中悪人だったら、普通の人暮らしていけないじゃん…」
「ぶ…まあな…」
コトっとマグカップを置くと、リビングの窓から外を眺め渡した。
「行ってよかったよ…俺さ…」
「ん?」
「教師になって、その後どうしようって…なんにも考えてなかったんだよ」
「そう…なの…?」
先生になって…その後…?
そんなの考える必要あるの?
教師になったら、それがゴールじゃないの?