第8章 幾望
「天気凄い良いね」
そう言ったら、しょうがないなって顔して翔は笑った。
「ああ…洗濯でもすっか…」
「俺がやるよ。居候なんだし」
「なにが居候だ…洗濯くらいできるから…」
そう言ってベッドの上で起き上がると、髪をかき上げた。
「…ああ…いい朝だ…」
そう呟くと、裸のまま窓辺に立つ俺の隣に来た。
「窓、開けるか…」
レースカーテンを開けて、窓を開けた。
外の空気のほうが、少しだけ暑かった。
「…あっちいな…」
「うん…」
「さすが東京だな…」
窓枠に肘を掛けると、翔は少しだけ笑って。
懐かしそうな目をした。
「なに…?なんか思い出してんの…?」
「ああ…大学卒業した年な」
「うん」
「世界中、回ったんだ」
「ええ…?一人で?」
「そう。みんなもう就職してたしな…」
「翔は?」
「…ちょっといろいろあって、就職浪人してたんだ…」
気まずそうな顔をすると、俺の肩を引き寄せた。
俺も窓枠に肘を付いて、一緒に外を眺めた。
「アフリカのな、サバンナの中にあるホテルに泊まったことがあって…」
「へえ…」
「朝は寒いくらいなんだけど、日が昇ってきたら熱くて熱くて…でも、朝のあの気持ちいい空気は、忘れらんないな…」