第8章 幾望
風呂からあがると、リビングでほてりを冷ました。
翔は曇るとかいって、まだメガネも掛けてない。
電気をつけないでカーテンを開けて、ふたりで窓を開けて外を見た。
半月はもう、ここからは見えない位置に行ってしまったようだ。
残念だったねって顔しながら、翔はスリッパの音を鳴らして冷蔵庫に冷たいものを取りに行った。
俺は外を眺めながら、ソファに座った。
バスローブを俺に貸してくれて、自分はバスタオルを腰に巻いてる。
ずり下がるらしくて、バスタオルを手で押さえながらペットボトルのジュースを2本持ってくると、俺に1本渡してくれた。
そのまま、どさっと俺の隣に座った。
「あっちーな…もう夏みたいだな」
「まだ5月だよ?」
「5月は初夏だからな」
「へ?そうなの?」
「そうだぞ」
ぱちっとキャップを開けて、ぐびぐびとジュースを飲んでる。
俺は手に持ったまま、翔を見てた。
「智、飲まないの?」
「飲ませて」
ぐいっと翔にペットボトルを押し付けたら、みるみる真っ赤になっていった。
「お…おまえはぁ…」
「むふふふふ…」
ん、って目を閉じて待ってたら、唇に硬いものが当たった。
ペットボトルの開けた口が俺の唇に当たってる。
「やーだー」
「やだじゃねえよ」
「んーーー」
ぐりぐりと唇にペットボトルの口が当たる。
「やだって言ってんでしょお!?」
振り払ったら、ばしゃってジュースが溢れてきた。