第8章 幾望
「全然夜でも、怖くないって思った」
翔はお風呂椅子に座りながら、こっちに顔を向けた。
恐る恐る目を開ける。
「もう…怖くないなって…思ったんだ…」
俺の顔をじっと見て。
それから、少し笑った。
「…良かったな」
「うん…」
雨で…何も見えない夜もあるかもしれない。
でもその時は、他の人にだって何も見えてないんだ。
でも晴れた日には…月も…北極星も…他の星も…
いっぱいいっぱい…見える。
ずっと雨の日なんて続かない。
いつかは、晴れる日が来る。
そして俺を照らす月に、必ず会える
また翔はカランを上げてお湯を出した。
髪を流すと、ぎゅうっと髪の毛をオールバックみたいにして絞ってお湯を切った。
「…勉強することってな」
「ん?」
さっと顔についたお湯を手で拭き取ると、また座ったまま俺を見た。
「勉強してそれが身についていくってことはな、世界を知っていくってことと同じことなんだ」
「…うん…」
「知ると、怖いって思う気持ちも減るって知ってた?」
「…知らなかった」
「それが、勉強する意味だ」
「勉強する意味…」
「…そう。勉強してさ…今度は、智が誰かを照らすかもしんないだろ?」
「俺が…?」
「そう。それも勉強する意味」
満足気に笑うと、立ち上がった。
わお…全部丸見え。
「はい。次、智どーぞ」
「どーも」
翔は仕返しとばかりに、じっと俺のこと見てる。
ちょっと恥ずかしかったけど、何にもない顔して体洗ってたら、翔は不満げだった。
勉強する…意味…
今度は、俺が誰かを照らす…
そんな存在に、いつか
なれるんだろうか