第2章 寒月
夜の8時頃、やっと母さんが寝たみたくて、リビングが静かになった。
着替えて、そっと部屋を出る。
真っ暗なリビングは荒れ放題に荒れていた。
多分、どっかで母さんが寝てるはずだけど…
そのままリビングを素通りして、玄関に向かった。
「……」
言葉もでなかった。
玄関の三和土いっぱいに、俺の靴が散乱してる。
全部、カッターで切り刻まれてる。
「…どうすんだよ…」
明日から、学校行けない…
なんとか一足だけ無事で。
でもそれは、ビーサンで。
まだ5月だから、これじゃ寒いけど…
でも、もうこの家に居たくなかった
一晩でもいいから、外に出たかった
だから、ビーサンを引っ掛けて家を飛び出した。
マンションの下で、松本が待っててくれた。
「よ!…って…ビーサン!?」
服装にうるさい松本は、早速そこに目をつけた。
「…他にないんだよ…」
「は?どうしたの?」
「なんでもない」
「なんでもないって…」
そう言いながら、松本は俺の顔を見た。
しまった。
朝、母さんに殴られた頬…少し赤くなってるんだった。
さっと隠すように横を向いた。
ちょっと、複雑そうな顔をしたけど、何も聞いてこなかった。
「じゃ、行こっか…先輩の家、渋谷なんだけど、それじゃ寒いっしょ?どっかで買う?靴」
「あ、うん…そうする…」
だいぶ暖かくなったけど…やっぱ5月の夜は寒い。
寒いのは…ビーサンのせいだけでもないのかもしれないけど。
「…ばかじゃねーの…」
「ん?どした?大野」
「なんでもね…」
そう思ってしまったことが、ばからしくて。
唇を噛み締めた。
仁科が、笑ってる顔が浮かんで
癪だった