第8章 幾望
「智、背中流そうか?」
「んー?自分でできるよ…」
「そうか?」
結局、なんだかんだ言って一緒に風呂に入ってくれた。
浴槽に浸かりながら、体を洗う翔を眺めている。
「…なんかね…」
「ん?」
「笹野先生に月のことさ、言われてから調べたんだけどさ…よくわかんなかったんだけど、カズヤが凄い詳しくてさ…」
「おお…あいつ地学の成績一番いいな…」
シャンプーが目に入らないように、ぎゅうって目を閉じてる翔がやたらかわいい。
シャンプーハット似合いそう。
「だから、教えてもらったんだけどさ。月って、太陽と同じで昇っては沈むじゃん?だから大体方角がわかるんだよね」
「ああ。そうだな」
「でも新月になるとさ、全然見えなくなっちゃうけどさ…でもその時は、北極星見れば夜でも方向わかるんだよね?」
「そうだな。夜だったら、月よりも北極星だな…」
水道のレバーを上げて、シャワーからお湯を出してる。
ジャーっと頭についた泡を洗い流すのを、じっと見た。
流し終わったら、ちょっとぶるっと頭を振って。
それからトリートメントに手を伸ばすんだけど、目をぎゅっと閉じたままだから見失ってて。
手が空を何回も切るのが面白かった。
「ぶふっ…」
「…笑ってんじゃねえ…」
あ、ちょっと赤くなった。
「それ聞いてさ…」
「うん?」
やっとトリートメントを手に取れた。
ぶにゅっと手にトリートメントを出すと、髪の毛に塗り始めた。