第8章 幾望
懐かしいものを見るような目で、部屋を眺めている。
なんだか恥ずかしくなって、棚においていたCDのケースを手にとって見てた。
「ここに来る前はどこにいたの…?」
「ああ…港区のマンションでな…」
ぽつぽつと、智が質問するから答えた。
テレビもなにもないから、静かすぎる部屋でただ話をしていた。
それも俺の昔話ばっかり。
窓の外はさっきまで明るかったのに、暗くなってきて。
「腹、減ったか?」
「うん」
「じゃあ、飯食うか…下に降りよう」
智を連れてリビングまで戻ると、間続きのダイニングではもう料理が並べられていた。
母親を舞と修が手伝っている。
「お。修、偉いなあ…」
「お兄ちゃんは一回も手伝わなかったから料理むりでしょ?修は料理できるようにさせるの。ねー?お母さん」
「そうよお。修は翔と違って手先が器用なんだから」
「だーっ!うっせー!」
独り立ちしたあと、料理ができなくて…
泣きそうになりながら、実家に飯を食いに来たことを、こいつらはいつまでもからかってくるんだ…
「たか江さんの飯がうまいんだよっ!」
「…たか江さんて…?」
「ああ…うちの昔からいるお手伝いさんだよ…平日はたか江さんが飯作ってくれるんだ」