第8章 幾望
リビングから奥の廊下に入った。
「…同じことしてたね…」
「おん…」
智は、満足気に笑っている。
緊張はだいぶ解けたのか、肩もいかってない。
「父さん?入るよ」
書斎のドアをノックして開くと、父親は椅子に座ったままこっちに振り返った。
「やあ。いらっしゃい」
「あ、はじめまして。大野智といいます…」
「うんうん。翔から聞いている。下宿しているんだって?」
「はい…」
「お母さん、早く元気になればいいな」
「…はい、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げると、俺を見た。
「どのくらいの期間になるか、まだわからないから…これからちょいちょい飯食いに来るから」
「ああ。遠慮せず来ると良い。大野くんも、翔が居なくても来ても良いんだからな?」
「えっ…」
「私の息子が料理がうまいわけがない」
断言されて、智は吹き出した。
「…やっぱりな…」
「おっ…おいっ!大野っ!」
「ご、ごめなさい…ぶぶぶ…」
「翔、料理の勉強もしろ」
「う、うん…」
そんなもんとっくにしたけど…
なぜか俺の作るものはまずいんだ…
でもこれからは、やるしかないんだよなあ…
「大丈夫です。俺が作ります」