第8章 幾望
「今日はみんな揃ってるからね」
「げ、親父いるの…」
リビングに入ったら、修と舞がソファに座ってテレビを見ていた。
俺たちの来訪を、ふたりとも大歓迎してくれた。
智は目を白黒させている。
修が年下だったから、びっくりしたかな。
一通り挨拶を済ませると、親父の姿がない。
「あれ?親父は…?」
「書斎にいるわ。顔出して来なさいよ」
「ああ。大野、一緒に」
「あ、ハイ…」
緊張でカチコチになっているのが面白くて。
「あ、あの!洋子さん!」
「ん?」
智が母親に話しかけた。
「こ、これ!先生から!お土産です!」
さっき、車の中でおまえから渡せと、岡埜栄泉の豆大福を渡しておいたんだ。
それをカチコチになりながら差し出している。
「あらあ…岡埜栄泉ね…嬉しい!」
母親は受け取ると、箱をナデナデした。
「豆大福かしら…翔、覚えてくれてたのね」
「あ、ああ…まあ…」
思わず、智と目を合わせた。
松本の母親と全く同じ動作をするから…
ぶぶっと智は笑って。
ちょっと緊張が解けたようだ。
「じゃあ、書斎行ってくるよ」
「ええ。ご飯もう食べられる?」
「あー…まだ…かな…」
「じゃあ、ゆっくり準備してるから、あとでいらっしゃい。部屋、掃除機かけておいたから、そっちでゆっくりしたら?」
「ありがとう。母さん」