第8章 幾望
side S
「ねえ、予定ってなに?」
車を走らせてしばらくすると、智がこちらを見上げて聞いてきた。
「嘘かと思ったけど、なんかこれ翔の家とは方向違うよね?」
「おお、実家いくぞ」
「えっ!?翔の実家?」
「そう。こっから近いからな。夕飯、そっちで食うって連絡してあったんだ」
「そ、そう…」
ちょっと緊張したようだ。
さっきも、松本の家に行くとき緊張してて、車の中は無言だったし…
かわいいとこあるじゃねえか…
家に着いて、一台空けてある駐車場に車を停めた。
まだ実家の鍵は持っているから、呼び鈴を鳴らして勝手に門から入って玄関ドアを開けた。
「おかえり、翔」
母親がちょうど、玄関でスリッパを出しているところだった。
「ただいま。紹介するよ。俺んちに下宿してる生徒の大野」
「あっ…えっと、大野、智です。はじめまして」
母親はニッコリ笑うと少し頭を下げた。
「いつも翔がお世話になっています。翔の母で洋子っていいます。この家、櫻井だらけだから名前で呼んでね?」
「えっ…」
「適当でいいんだよ。洋子おばちゃんとか…」
一瞬、母親の顔が般若になったから言い直した。
「洋子さん、とかな?」
「あ、はい…洋子さん…」
「ふふ。よろしくね?大野くん」
そう言って軽く握手してから、リビングに案内してくれた。