第8章 幾望
なんだかぷりぷりした松本が、お茶を出してくれた。
今日は少し暑いくらいだから、アイスティーだった。
小ぶりの透明なグラスに、きれいな色の紅茶が入ってる。
中に入っている氷が、カラカラといい音を立てた。
「はい、ここにガムシロとミルクあるからね」
「ありがとう」
翔はガムシロの容器を手に取ると、ドボッと全部グラスに入れた。
「ちょ……」
「ん?…あっ…」
うっかり、やってしまったらしい。
向かいのソファに座っているお父さんは「ははは」と笑い、絨毯に座っているお母さんは「ほほほ」と愛想笑いした。
「ぶーーーっ…先生甘党なの?」
松本におもくそ笑われてる。
「す…すいません…つい…」
そう言ってガムシロの入った容器を松本に戻した。
「マジ味覚やばいっすね」
「す、すまんなっ!」
「こら、潤。そんな口利くもんじゃない」
「はーい…」
へへと笑って、松本はまた台所に戻っていった。
「どうぞ。召し上がって?」
一緒に持ってきた菓子鉢に盛られたお菓子を見て思い出した。
「あの…先生…」
「…なんだ…」
「お菓子…」
「あ。そうだった」
翔は慌てて紙袋から菓子折りを取り出した。
「これ、つまらないものですが…」
「ああ、そんな気を使わんでください…」
「いえ…お詫びも兼ねていますので。あの折は、大変ご迷惑をおかけしました…」