第8章 幾望
「智」
「ん?」
「帰ろ?」
「ダメ」
「へ?」
制服のポケットに手を突っ込んで、ちょっとくしゃくしゃになった紙を取り出した。
広げて、カズヤに見せてやった。
「…あ…これ…!」
「逃さねえぞ。サブリーダー」
「ええっ!?」
目をまんまるにしたカズヤの腕を掴んで。
強引に引き寄せた。
「うわっ…」
「体育祭までに仕上がんないだろ?今から教室戻るぞ」
放課後、カズヤをとっ捕まえて今日こそやるつもりだったんだけど、すぐに五関センパイが来たから他の看板チームのメンバーには帰っていいよって言っちゃったんだよね。
だからふたりでやるしかない。
「ちょっ…俺、これからママんとこに…」
「うっせー!ぜってー逃さねえからな!?俺に看板リーダー押し付けといて!」
「や…悪気はなかったんだよ?ね?ね?他に適任の人が居ないから…」
「ごちゃごちゃうるせえ!行くぞ!」
その日は、なんとか大体の下絵を本番の看板に写し終えることができた。
他の看板チームのメンバーはいないから、散々カズヤをこき使ってやった。
他のクラスメイトは、教室の後ろでヒーヒー言ってるカズヤをみて面白そうに笑ってた。
真っ暗になって。
教室から締め出されて帰るとき、カズヤはクタクタで泣きそうになってた。
「もお…人使い荒いし…鬼リーダー…」
「ばーか。俺をリーダーにしたのおまえだろ?」
何気なくそう言ったら、ちょっとカズヤはびっくりした顔をした。
「え?」
「あ、ううん…なんでもない…」
ちょっと嬉しそうな…なのに、寂しそうな顔をしてカズヤは笑った。
「へへ…なんでも…ない…」
そう言ってちょっと小走りで廊下を走っていった。
「ちょ、待てよ!」
なんでそんな顔をして笑ったのか…
俺にはわからなかった。