第8章 幾望
「和也さんは…」
「うん?」
「外国行って…自分がちっぽけだって感じたって」
「外国?」
「うん。そんとき、すっごい自分がちっぽけだって思ったって。自分が、馬鹿だって」
「へえ…」
またカキーンと金属バットの音が聞こえてきた。
目を遣ると、また外野の連中がわらわらとボールを追っているのが面白くて。
思わずちょっと笑った。
「家、出ろって。18になったら、出ちゃえって。んで、世界中回れって…そう、言ってくれた」
「うん…」
「だから…わかってんじゃないかな…自分がちっちゃい世界にいるって…」
「そっか…」
「…だから、逃げればいいのになって」
一人で…あんな孤独に恐怖してるなら
和也さんもまた、動けばいい
自由になればいい
自分であの家を、出ればいい
そう、思った。
「…捨てらんないじゃないかなあ…」
「え?」
「なんとなく。そう思う」
「…うん…」
それは…俺もそうだったから…
「俺も、わかる…気がする…」
もう二度と会うことはないだろうけど…
あの小さな背中が、誰かに大丈夫だよって抱きしめられたらいいなって…
翔が…俺のこと、抱きしめてくれたように。
大丈夫だよって。安心しろって。
そう、思った。