第8章 幾望
「…和也さんのことだけどさ」
「…おん…」
「恨んでる…?」
「別に…」
あの時は、本当に嫌でたまらなかったけど…
今となっては…
「逃げればいいのにな」
「え?」
「俺、お父さんに会ったよ」
「和也さんの…?」
「うん。朝食、母屋に食いに行ったとき。お父さんも一緒だった」
「うわ…まじで?俺、一回も母屋行ったことない…」
「そっか…」
柵に肘をついて、野球部がちっこい球を追いかけてるのを目で追った。
「なんか、他人みたいだった」
「ふうん…」
「俺、あれ見たら、まだ父さんに物が言えてたんだなって…思った」
「そう……」
「まだ…父親らしいこと、してくれてたなって…あのお父さんより」
「智も素直だもん。わかるよ」
「は?」
横を見ると、柴犬みたいな口元は更に柴犬みたいになって笑ってる。
「俺、小さい頃から育児ホーキされてるから、捻くれてんもん」
「そうかあ…?」
「んふふ…そうなんだよ…」
「カズヤも素直じゃん」
「えー…全然…智のが可愛いぜ」
「ぶ……」
何いってんだこいつ…
思わず顔が赤くなる。
「ほら…そうやって赤くなるとことか…」
「ばか…」
恥ずかしくなって、ちょっと顔を逸した。