第8章 幾望
「俺は…なんにも言えなかったから…」
「…ああ…」
「言っときゃよかったって、センパイ見てたら思った」
「はは…まあ、言ってやれよ」
「え?」
「今度会ったら、言ってやればいいよ」
「今度…」
「大人になってからでもいいけどね」
そう言ったら、大野は笑った。
花が咲いたように、辺りが明るくなるような笑顔だった。
「うん。思いっきり、言ってやる。しんどかったって」
「ああ…言ってしまえ。全部、言ってしまえ」
その時は、俺が一緒に言ってやるよ。
俺がおまえら以上に、こいつを幸せにしてやるってな。
「あ~…なんかやらしい…」
ミーティングルームのドアから、相葉先生の顔が見えた。
「えー?何がやらしいの?」
その下から、仁科が顔を出した。
「なんもしてないわ!」
「えー?してないの?」
「しないの?しないの?」
「するかボケ!」
学校で何を言っているんだ、コイツらは…
「もー…何いってんだよカズヤ…帰ろ?」
「あ、うん。一緒に帰ろうよ」
「ああ」
「じゃ、先生…」
「あ、仁科」
「え?」
「…ありがとうな」
「へ?なにが?」
「色々。今度ちゃんとお礼行くから」
「えー?別にいいよ。これから智にちゃんとお礼してもらうし」
「は?」
「さ、行こ行こ~」
「ちょ…仁科!?」
大野は俺を振り返って戸惑った顔をしたけど、仁科に引きずられていった。
「翔ちゃんと大野くんは、一生カズヤには敵わないねえ…」
「ぐう…」
また相葉先生に笑われてしまった…