第8章 幾望
五関は大野を見ると、へへっと笑った。
大野も、柔らかく笑い返した。
「よかったな。センパイ」
「うん…大野も、ありがとうな」
「俺、なんにもしてないし…」
そう言いながらも、ちょっと顔が赤くなってて。
「…先生」
「ん?」
五関がまた俺を見て、それから見たこともないような笑顔を見せた。
「僕、他の高校に編入します」
「えっ!?こんな時期に!?」
「…もう、うちの親が…」
「あ、ああ…」
「だから、ちゃんと大野にも櫻井先生にも、お礼言いたかったんです」
「…そうだったか…」
3年のこの時期に…他の高校に編入するのは至難の技だが…
五関は成績はトップクラスだったし、そこは問題ないだろう。
他の私立高なら、受け入れてくれるところはあるはずだ。
少し金はかかるかもしれんが。
そこはまあ、五関の家なら問題ないだろう。
「明日から、もう来れないから…」
「そうか…五関、おまえはそれでいいのか?」
「…僕は…」
ぐっと五関は唇を噛み締めた。
「本当は辞めたくないです。でも…」
「なら、そう親に言えよ」
大野は、じっと五関を見つめている。
「え?」
「センパイ、親にそう言ったの?」
「…い…言えない…」
「なんで?」
「し、心配してくれてるのが、わかるから…」
「でもさ、言わないと伝わんねーと思うけど?」