第8章 幾望
「…それって」
「はい」
「プロポーズ……?」
「はい、そうです」
相葉先生は、口をぽかーんと開けたままマグカップを持っている。
保健室には、5月の麗らかな光が入ってきている。
今日はよく晴れていて、眩しいくらいだ。
夏が近い。
あれから数日。
大野は学校になんとか復帰できて、今は通常の生活を送ってる。
休んでいた間の授業の補習プリントを各教科の先生にお願いし、大量に毎日宿題になっているが、文句も言わずやっているようだ。
五関もとりあえずは、あいつらからの手出しがなくなったことで通常登校ができているようだ。
まだあの件に関しては、大人たちの間では紛糾しているが。
普通に登校ができているだけでも、去年から見たら大きな成長だと思った。
仁科はやっと今日学校に来た。
欠席の理由は、手首が痛くて鉛筆持てませんと来たもんだ。
嘘つくなし…
しかも鉛筆て…
「溢れますよ?相葉先生」
「わっ…うわっちっ…」
相葉先生の凝っているごぼう茶が、ズボンの上に溢れてしまったようだ。
「な、な、なにいってんの!?翔ちゃん!?」
「え、だから、これからずっと一緒にいようなって」
「うわーーーーー!うわーーーーー!」
相葉先生はもう、ズボンが熱いやらなんやらでオタオタになっている。
この人のこんなところを見れて、正直嬉しい。
「えっちもしてないのにプロポーズっ!?」
「したし」
いや、されたのか…
まあいい。
「しっ…したの!?」
「はあ。されました」
「さ、されたって…えっ!?」
相葉先生が立ち上がって、ミーティングルーム内をウロウロしている。
「ちょっちょっとまって…もう展開早すぎて…」
5分くらいウロウロしている間に、俺はごぼう茶を飲み干した。
「ごちそうさまでした。職員室帰ります」
「ちょっ、ちょーーーっと待ったああ!!」
後ろから羽交い締めにされた。
「ぐお…」
「話を聞くまで、逃さないからね…」