第7章 繊月
翔…
「母さんが…」
「うん」
信号が青になった。
翔は前を向いて、車を発進させた。
「俺の気に入ってたもの、全部捨てたり切り刻んだりしてたんだ…」
「…もしかして、通学用の革靴もか?」
「うん…だから、あれしかなくて…ビーサンしか…」
「なるほどな…」
前を向いたまま、翔は考える顔になった。
「…どうして…あんなことしたんだろうなって…」
「そうだな…息子をなんとしても手元に置いておきたかったんだろうな」
「え…?俺を…?父さんじゃなくて…?」
「もしかして、友達のことも制限しなかったか?智のお母さんは」
「なんでわかるの…?」
「…俺は教師だぞ…そういう勉強もしてきてるんだぞ」
「あ、そっか…」
先生になるために勉強してきてるんだ。
そういうことまで勉強してるのか…
「乖離への恐怖っていうんだ」
「かいり…?」
「離れていくことの恐怖…お父さんが離れていって、お母さんは怖かったんだと思う。その上、智まで離れていったらお父さんを繋ぎ止めておくものがなくなるし、自分も一人になる」
それは、なんとなくわかる…
でも、俺が好きなものをなんで捨てたり刻んだりする必要があるんだろう…
そんなことしなくても、俺は離れていかなかったのに…