第7章 繊月
翔の高級そうな車の後部座席は、俺の荷物でいっぱいになった。
「よし。あとはいいな?」
「うん。もう、いいよ」
もともとそんなに物にも執着はない。
俺が気に入った物は、母さんが全部カッターで切ったり、捨てたりしたから…
小さい頃からの気に入ってた物も、高校生になってから買ったものも…全部…
だからなるべく物を持たないようにしてた。
コインパーキングから見える、マンションを見上げた。
生まれた時から、帰る場所はここだった。
もう、ここには…誰もいない
俺も戻らない
母さんは…どうするんだろう…
治ったら、戻ってくるのかな…
母さん…
なんで…あんなことしたんだろ…?
「ねえ、翔…」
「ん?」
車は翔の家に向かって走り出していた。
「俺、ビーサン履いてたじゃん…?」
「うん」
「あれさ…」
翔、びっくりするかな…
きっと翔はそんな目になんて遭ったことないだろうし…
言ったら、引かれるかな…
信号で車が停まると、翔が俺の肩を掴んだ。
「言え」
「え?」
街灯に照らされた翔の顔が、ちょっと怖い。
「言いたいことがあるのなら、飲み込むな」
「…翔…」
「受け止めるから」
ふっと…笑った。
「全部、受け止めるから」