第7章 繊月
「あれ…これ…」
白いコットンシャツとベージュのチノパン…
これ、和也さんのだ
俺にくれるって言ってたけど…
「…どうしよう…」
シャツを持ったまま、途方に暮れた。
あのときの和也さんの顔…
お父さんの前にいるのに、無表情で…
敬語使って…
ホテルみたいな美味しい朝食だったのに、ちっとも美味しそうに食べてなくて…
跡継ぎのための…マシーン…
それもお父さんじゃなく、お祖父さんの会社の…
和也さんも…親に、道具にされてたんだ…
家族という形を保つだけの…道具に…
それも小さい頃から
少し、体が震えた。
ぎゅっとシャツとチノパンを握りしめて、耐えた。
嘘、が…嫌いだった…
和也さん…
なのに…
いつまであんな偽りの家に居るんだろう
外国に行って、ちっぽけだって思ったんじゃないの…?
俺にあんなことしなきゃいけないくらい
クスリや酒に頼らなきゃいけないくらい
孤独なのに
「…大野…?」
櫻井先生の声が聞こえた。
「どうした?飯だぞ…?」
シャツとチノパンを掴んだまま、顔が上げられなかった。
息が詰まる。
「具合、悪いのか?大野」
先生がベッドまで歩いてきて。
俯いてる俺の頬に触れた。
「…大野…?」