第7章 繊月
なんで…そんな…
俺のために父さんがそんな約束したって思えないんだけど…
「…父さん、ちゃんと約束したんですか…?」
「ああ。大野、前にもそう言ってたよな…それだけお父さんが信用できないってことか?」
「うん…」
「それは以前からだったってことだな?」
頷いて…言おうかどうか迷ったけど、これも言ったほうが良いと思った。
「父方のじいちゃんが死にそうなとき…父さん、嘘をついて帰ってこなくて…だから、前からそういうことの繰り返しで…」
先生は頷いた。
俺が言ってること、信じてくれるんだ。
「……前に、先生と話した日…」
「ああ。喫茶店で会った日だな?」
「あの日、父さんは…俺に、今まで通り母さんの面倒を高校卒業まで見ろって…先生に言ったら、たくさん学校に寄付してるんだから、嘘を言って先生のクビを飛ばすぞって…脅された…」
「…大野」
顔を上げると、櫻井先生は少し厳しい顔をしていた。
「おまえにとって辛いかもしれないけど、これからの生活に負い目を感じてほしくないから、全部言っておくな?」
「…はい…」
「俺も、おまえのお父さんに脅された。おまえみたいな若造の教師のクビを飛ばすことなんて簡単なんだぞってな」
「…ごめんなさい…」
「おまえが謝ることじゃない。…聞いてくれ大野」
俯きそうになったけど、先生の声でまた先生の顔を見た。
先生は、笑った。
「俺も、脅してやった」
「え?」
「なに、翔ちゃんやるじゃん。なんつって脅したの?」
ぐりぐりと相葉先生が、肘で櫻井先生を突いてる。
「…すまん…卑怯な手段だとは思ったんだが…おまえのお父さんの会社と、うちの親父の勤め先が関係があって…だから、な?」