第6章 幻月
そのまま先生は、俺が泣き止むまでずっと抱きしめていてくれた。
時々、髪を撫でてくれて。
小さい子をあやすみたいに、ずっとずっと…
「ぶえっくしっ…」
「…へくしっ…」
体が冷え切ってたみたいで、二人で同時にくしゃみして。
それが酷くおかしくて。
泣きながら笑った。
先生も一緒に笑って。
まだふらふらしてたけど、二人で支え合いながら寝室に行って。
先生がクローゼットを漁って、新品の下着と服も貸してくれて。
着込んだら、そのまま二人でベッドに倒れ込んだ。
ベッドが狭かったから、先生と抱き合うような格好で眠った。
先生の匂いが、凄く安心できて。
抱きしめてくれる胸に顔を埋めて眠った。
次の日、目が覚めたら外は明るくて。
部屋の中に陽の光が差し込んでた。
一体何時間寝てたのかもわからない。
隣を見ると、先生はもう居なくて。
その代わり、白衣を着たみたこともないじいさんがベッドの横で立ってた。
「お。目が覚めたかね…?」
「……」
「ああ…私は、翔くんの主治医で、笹野と言うんだ。よろしくな?」
「あ…ハイ…」
「早いとこ、君の体からドラッグを抜くために、点滴をしているから、動かないようにな」
腕を見たら、点滴の針が刺さってて管が伸びてた。
笹野先生の横には点滴のスタンドが立ってた。