第6章 幻月
みんなうそだ
とうさんも
かあさんも
みんなうそだ
「嘘つき…嘘つき…」
「大野…わかってるから…」
先生の腕が、俺の体を抱きしめた。
「離せよっ…嘘つきっ…」
「ごめん…大野…ごめん…」
お湯の中で離れようと必死に藻掻く。
水がすごい音を立てて波立って、どんどん浴槽からこぼれていく。
「…ごめん…大野…」
体が物凄い熱くなって。
怒りで力が漲った。
先生を跳ね除けて、腕を振りほどいた。
「大野っ…」
なんで…?
なんで泣いてるんだよ
泣きたいのは俺の方なのに
なんであんたが泣いてるんだよ
「うるせえんだよっ…」
また掴もうとしてきた手を、力いっぱい振り払った。
「あっ……」
体勢を崩した先生の頭が、浴室の壁に激突した。
凄い音が響いた
「っ……」
「あ…先生!?」
「…大丈夫だから…」
先生はそのまま壁に頭を凭れさせた。
暫く、ぐったりと動かない。
「許してくれ…大野…」
何を。
俺を疑ったことを?
あんな目で見ておいて?
「ごめん…大野…」
先生がこちらを見た。
目が真っ赤で
額の傷が、痛そうで
「ああ…ああああああああっ…」
訳が、わからなくなった