第6章 幻月
side O
全部、夢みたいで
全部、現実感がなかった
なんにもしてないのに、勝手に体が震えて勝手に汗が吹き出て。
体の中は酷く熱いのに、外側が寒い。
喉がカラカラでうまく声が出てこない。
目も良く見えない。
物が全部ぼやけて見える。
先生の顔も…すごくぼやけて…
眼鏡の奥の目が、酷く心配そうに俺を見てる。
でも、目を閉じると浮かぶのは、あのときの怯えた目。
俺のこと疑って…俺を見る、あの目。
本当は…
俺のこと
信じてなんかいないんじゃないの
ねえ、先生
「大野…」
先生の俺を呼ぶ声で、目を開いた。
風呂に入ってる。
そういえばさっき、風呂に入るって言ってた。
クスリを…汗をかいて、体の外に追い出すって…
先生に抱えられて、浴槽に張ってあるお湯の中にいる。
俺の投げ出した体の横に、先生の足が見えた。
俺の体を抱えるように、先生の腕が体に回しかけられてる。
「スマン…おまえ一人で入れたら、ずるずると沈んでいくから…」
何かを言い訳するように、先生は早口で喋ってる。
わかんない。何のこと言ってるのかな…
俺の背中が、先生の胸板にぴったりとくっついて。
そこが酷く気持ちいい。