第6章 幻月
「熱い…体、熱い…」
はっとして、大野の額に手を当てた。
燃えるような熱さで。
なのにガタガタと震え始めた。
「大野…?」
「なんか…寒い…」
ビショビショに汗をかいているのに、大野の唇は真っ青だった。
点滴の刺さっている腕を体の方に引き寄せようとするから、慌てて左腕を押さえた。
「せんせぇ…」
不満げな声が聞こえて。
でも、どうしたら…点滴抜けちゃうじゃないか…
「寒い…寒いよぉ…」
老医師の言葉を必死で思い出した。
暴れるようだったら、点滴を止めて抜いてしまっていいって言ってた。
「大野、少しの間だけ動くな。今、点滴抜くから」
そういうと、震えながら大野は動きを止めた。
滴下速度を調節するダイヤルを医師の言うとおりに止めて、それからアルコール綿で押さえながら、針を抜いた。
暫くそこを手で押さえながら、大野の額に手を当てた。
「熱い…」
でも大野は寒さに震えてて。
どうしていいかわからない。
とりあえず血が止まったのを確認して、そこに絆創膏を貼り付けておいた。
点滴のスタンドを部屋の隅に寄せると、クローゼットから羽毛布団を出した。
シーツを掛ける時間ももったいなくて、そのまま大野にかけてやる。
でも、大野の震えは止まらなかった。