第6章 幻月
でもこんなデリケートなこと、他の人に大野は知られたくないって思うんじゃないだろうか。
だったら、俺が…
「なんでもかんでも翔ちゃんが抱え込むのが、大野くんのためになるなんて思ってないよね?」
ギクッとした。
まさに今、考えていたことだった。
「…翔ちゃん一人じゃ、限界があるのは…よくわかってるでしょう?」
そうだ…今回のことだって、相葉先生が居なかったら…
仁科が松本が居なかったら…
「任せるべきところは、任せる。それに翔ちゃんの生徒は、大野くんだけじゃないでしょう?」
「あ……」
仁科がもぞっと動いた。
抱え込んでた膝を床に下ろして、相葉先生を見た。
「そんくらいにしてやんなよ…明日は日曜だしさ。まだ櫻井先生、冷静じゃないんだと思うからさ…ね?」
仁科にこんなこと言わせて、ほれみたことかと相葉先生が俺を見た。
「…情けない限りです…」
生徒に庇われるなんて…
「しょうがないって!先生、こういうの経験したことないんだからさ!」
明るく言われて、余計に落ち込む…
さっきの仁科の八つ当たりだって、俺にはその苛立ちがわかる気がしたから…あくまで、気がしてるだけだが…
責めることなんてできない。
すごく…守られて…生きてたんだ…俺…
今の仁科にも…大野にも…
過去の松本だって…
その手が…守ってくれる手が、居なくなった瞬間が、あったんだ。