第6章 幻月
予想はしていたことだから、驚きはなかった。
「エクスタシーって呼ばれてるやつで…」
「ああ…MDMAですね。合成麻薬…」
「そう。アメリカじゃセックスの時に多用されてるし、日本でも今だにそういう人はいる。今は、そんなに純度の高いものは出回ってなくて。かさ増しの余計なものがいっぱい入ってるのが主流なんだ。でもあの子結構な勢いでラリってたから…純度が高いのかもしれない」
「そうですね…」
「で…その、大野くんね…」
「はい…」
「あの様子だと、多分…」
最後まで…されてたってわけか…
考えたくないから、思い出さないようにしてたけど…
救い出した時、大野は裸だったわけだし…
「随分抵抗はしたみたいだよ。あの和也って子がそう言ってたから。面白くないから縛ってやったってさ…」
「え…」
思わず仁科の顔を見てしまった。
こんな話、聞かせたくないと咄嗟に思ったのだが…
よく考えたら、こいつは現場にいたんだ。
全部知ってるはずで…
「ああ…俺、ちょっとやそっとのことじゃ驚かないし傷つかないから…気にしないでね、センセ」
「いや、そんなこと言っても…」
「それに…一時期だけど、俺も中等部の時はあの家に避難させてもらってたから…だから、あの人には世話になったっていうか…」
「世話に…って、おい…仁科…」
「違う違う…そういうんじゃなくって…だから、あそこで何が行われていたかとか…あの人がどういう人かは、わかってるつもりなんだ…」