第6章 幻月
side S
相葉先生と仁科を見送って部屋に戻ると、大野は電気がついているのに眠ったようだった。
汗はかいているものの、さっきよりは表情が和らいでいる。
点滴のスタンドのある方とは逆のサイドに陣取って、タオルでそっと額の汗を拭いてやる。
何度か拭いてると、大野は薄っすらと目を開けた。
「あ…ごめんな…起こしたか…?」
ふっと笑うと、大野は目を閉じた。
「先生…」
「ん?」
右手を、俺に向かって差し出してきた。
手、握れってことかな…
きゅっと手を握ると、安心したように息を吐き出した。
「苦しいか…?」
「熱い…体、熱い…」
「そうか…」
まだ点滴のパックは液体が残ってる。
あと1パックはぶち込んでくれって先生は言ってた。
早く体から、薬を追い出すために水分を入れなきゃならないんだ。
「大野、水飲めるか?」
吸い飲みなんて上等なものが、一人暮らしの家にあるはずもないから、ペットボトルの水を用意してる。
「…お前な、あの家の人に酒とドラッグを無理やり飲まされたみたいなんだ。覚えているか?」
そう聞いてみたら、小さく頷いた。
「松本に…」
ガラガラの声で、大野は伝えてきた。
「酒は飲むなって言われてたから、抵抗したんだけど…無理やり…飲まされた…」