第2章 寒月
「あんたもっ…あんたのお父さんもっ…嘘つきっ…嘘つき嘘つきっ…」
衝撃が来る度、腕で頭を庇うけど。
キンキンする声が耳に突き刺さって。
うるさい…うるさい…
「聞いてんの!?あんたもあいつもっ…嘘つきだって言ってんだよっ…!」
「…嘘じゃないよ…」
「口答えするなぁっ…!」
もうどこでもお構いなしに、叩きつけてくる。
酷い酒の臭い…
濡れた髪から飛び散る水が冷たい
髪ぐらい拭けよな…
最後に一発、庇ってなかった腹に蹴りが入って、床に突っ伏した。
「ざまあみろっ…」
女は…母さんは、突っ伏してる俺の顔に顔を近づけてきて、思い切り笑った。
「さぁとし…おかゆ作ってあげようか…」
そう言って、俺の腕を取って引き起こした。
「後で部屋に持っていってあげるね」
俺の返事なんか聞かず、床に散らばってるグラスの破片を片付けるでもなく。
上機嫌になってアイランドキッチンに戻っていった。
爆音の洋楽がうるさい。
母さんは、そのままワインの瓶を手に取ると、一気に煽って。
口からこぼれた赤ワインが、白いバスローブを濡らしていく。
酷く醜い物に見えて、目を逸らしてグラスの破片を拾った。