第6章 幻月
「翔ちゃんの…櫻井先生の家だよ。大野くん…」
保健室の相葉先生が、しゃがみこんで俺の顔を覗き込んだ。
「喋るのは初めてだね。僕のことわかるかな?」
「あいば…先生…」
「よし。記憶は大丈夫みたいだね…」
よしよしと俺の頭を撫でてくれた。
「安心して、いっぱい眠るんだよ…ここにはもう、怖いことはないからね…」
そう言って微笑んだ。
「あの先輩のことも、心配ないから。ちゃんと皆で話をしてきたからね」
「…ほんと…?」
カズヤに目線を向けたら、こくんと頷いてくれた。
「うん…大丈夫だから…とっちめておいたからね」
とっちめる…?
「だから、智は安心して寝るんだよ…」
そう言って、相葉先生と同じように俺の頭を撫でた。
相葉先生と櫻井先生が遠くで喋ってるのが聞こえる。
「じゃあ大野くんは来週いっぱい休みってことにしよう…養護教諭権限使おうか?」
「明日…大野の様子を見て決めます」
「うん。わかった…早く良くなるといいね…」
「はい…」
「よし。じゃあカズヤ送って帰るね。明日、大野くんの目が覚めたら様子見に来るから」
「すいません…ありがとうございました…」