第6章 幻月
先生の車からスタンドやら何やら運び出して、セットし終わった。
点滴の針を刺す手元を見ていたら、思わず目を瞑ってしまって。
「相変わらず翔くんは、注射が苦手だねえ…」
「自分にされるのなら平気ですが、人に刺すのを見るのはだめです…」
「おや、大人になったねえ」
「もう26歳になるんですが」
「おやおや…そうだったなあ…」
ふぉふぉふぉと笑いながら、笹野先生は点滴の調整を始めた。
…小さい頃から診てもらっているから、先生の中じゃまだ俺のこと幼児だと思ってるんじゃないだろうか…
「これで、よし…」
ううん、と唸りながら腰を伸ばした。
その時、先生の携帯が鳴り出した。
「ありゃ…いかん」
そうつぶやいて電話に出た先生の顔は厳しかった。
通話が終わると、ため息を付きながら先生は荷物を片付け始めた。
「翔くん。ちょっとなあ、患者さんの看取りに行かねばならなくなったから、俺は帰るよ」
「えっ…」
「これから起こること、起こりそうなことを説明していく。それから点滴ももう一袋あるから、それのやり方も説明していく。だから、一人でやるんだよ?」
「は、はい…」
「…この生徒さんの将来が掛かってるんだ…できるね?」