第6章 幻月
大野の状態を次々に確認していく先生の手は、迷いがなかった。
「翔くん。この生徒さんには酒とドラッグを飲まされている可能性があると言ったね?」
「はい」
「薬の種類はわかっているのかね?」
「今の所はまだ…」
「ふうむ…」
つるりと禿頭を撫でると、考え込んだ。
「…一般的に、血液中に合成麻薬などの成分が残るのは2日ほどだと言われている…」
「はい…」
「薬物による症状は1日で収まったとしても、初めての場合だと4日ほどは成分が内臓にダメージを与え続ける…」
「4日」
「そう。だからね、なるべく早く体から薬物を追い出してやらなきゃならないんだよ。翔くん」
「はいっ…」
勢いこんで返事をしたら、医師が苦笑いした。
「では、いまから点滴をするから…酒と一緒に薬物を摂っているからね。幻覚を見て暴れるかもしれないから翔くんはずっと付き添って貰うからね」
「わ…わかりました…」
薬物については、大学の時に勉強したが…
まさか自分の生徒がこんなことになるなんて思ってなかったから…ここ、日本だし…
世界を放浪したときに、そういう中毒の人は何人も見た。
それもなぜか貧困地域でだ。
もっと…勉強しておけばよかった。