第6章 幻月
1時間ほどで、老医師がうちに到着した。
時間は深夜0時を回っていた。
相葉先生と仁科からはまだ連絡はなかった。
「翔くん、久しぶりだねえ」
いつものしゃがれた声が、酷く安心できた。
「笹野先生、すいません…こんな夜分に…」
「いいんだよ。それよりちゃんと食ってるのか?痩せたんじゃないのか?」
「え?そうですか?」
「自炊はできないだろうが、外食でもバランスよくちゃんと食わないと、翔くんが先に倒れることになるぞ?」
なんで自炊できないこと知ってるんだろう…
「あ…ハイ…なるべく、気をつけます…」
「さあ、患者はどこだい?それと先に手を洗わせてくれるか」
「はい。こちらです」
笹野先生は、自家用車で来たということだった。
手には黒く大きな診察用のドクターバッグと白衣を持っている。
洗面所に案内して、手を洗って清潔なタオルで手を拭いてもらった。
それから廊下の一番突き当りの寝室に案内した。
ベッドに横たわる大野を見ると、笹野先生はさっと白衣を纏った。
そのまま駆け寄り、ドクターバッグを床に置くと中から聴診器を出した。
「熱は測ったかい?」
「あっ、うちに体温計がなくて…」
「そうかい…じゃあ、体温も測ろうか…」